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ご案内

北川啓介教授からのメッセージ

みんなが家をもつあたりまえを実現する

どこでも誰でも数時間で建てられて
酷暑でも極寒でも快適な『インスタントハウス』
 私が研究・開発したインスタントハウスは、わずか数時間で建てることのできる簡易住宅です。気球のように膜素材を空気で膨らませて屋根と壁を作り、内側に空気含有量の高い断熱材を吹き付けるだけで建物ができあがるので、一般の住宅と比べて建築費も安く抑えることができます。風雨に強く、風速80mの台風でも本体はビクともしません。被災地や途上国など家がなく困っている方に安心して住まえる場所を提供することを目的に研究開発しました。
 「安くてすぐに建てられる家」という構想を立ち上げた後の数年間は、いいアイデアが浮かんでも失敗続きでした。しかし、ある日カバンの中で小さく丸めてあったダウンジャケットが、カバンから取り出した瞬間に膨らんで元に戻るのを見て、建物全体に空気を多分に含ませる構造を思いつきました。空気を材料にすれば断熱効果も遮音効果も得られますし、費用もかかりません。
 こんなに軽くてメリットのある構造をなぜ誰も思いつかなかったのでしょうか?そこで初めて、理想的な住まいに必要なのは従来の建築の逆の発想だと気づきました。部材が大きい、重い、多いなど、既存の建築物の特徴を思いつくかぎりノートに書き出し、その反対語を並べたものをインスタントハウスの基本方針としました。
 従来の建物は構成している部材が重くて種類が多いので、たくさんの職人さんが必要です。私はまず、足場、基礎、壁、屋根を順に建てなくても済むように、円柱形の壁と円錐形の屋根を一体化して空気で膨らます構造にしました。空気を抜いて畳むことができれば、建設地までの運搬も容易です。
 大量のペンシルバルーンや大きなスポンジなど様々な材料を使って試行錯誤を繰り返し、2016年にようやく第1号が完成しました。特許出願後は、かたち、色、大きさを変えるなどバリエーションを増やしてバージョンアップを図りつつ、製造と販売を行う大学発ベンチャーを起業し、名工大での研究と相乗効果を為しながら、国内外に普及しています。

「大学の先生なら来週建ててよ」
被災地の小学生の悲痛な訴えがきっかけに

 インスタントハウスの開発を始めたのは2011年。きっかけは東日本大震災の被災地の避難所を訪れたときでした。それまでの私は、美しくかっこいい建築物を実現したくて、自分の設計のスキルとセンスを磨くことに懸命になっていたのですが、ここで出会った小学生のふたりの男の子が、私の人生を180度変えてくれたのです。
 私は避難所になっていた石巻中学校の体育館を訪れました。見学を終えて帰ろうとしたその時、ふたりの小学生が私の手を引き、グラウンドが見える場所まで連れていき、「あそこに仮設住宅が建つのに、なんで3カ月から6カ月かかるの?大学の先生だったら来週建ててよ!」と悲痛な表情で訴えました。まるで時間が止まったように、私はその場に立ち尽くしていました。
 翌日、名古屋への飛行機の中でも子ども達の言葉が頭から離れず、自然と涙が頬を伝う中、今までの自分を振り返りました。思い起こせば、学生の頃から、世界中の美しい建築や都市を実際に体感すべく旅する中で、それらよりも、空港や駅を降り立つと手を差し伸べてきた幼い子ども達のことが気になって仕方なかった。もう一度原点に帰って、あの子ども達の想いに応えよう。その時の決意がインスタントハウスの実現につながったのです。


トルコ・シリア大地震の被災地にインスタントハウスを寄贈
フードロスによる建築断熱材など新たな研究テーマも

 インスタントハウスは、仮設住宅だけでなくグランピング用の施設としても注目され、北海道から九州、沖縄まで日本各地に建つようになりました。売上げも順調に伸び、「私の収益は寄付する」という開発当初からの決め事をようやく実行できるようになった矢先の2023年2月にトルコ・シリア大地震が起きました。
 以前に本学の高度防災工学研究センターのメンバーとしてフィリピン・ボホール島の支援をした経験がありましたので、その時の人と人のネットワークを活かしてJICA(国際協力機構)のトルコ事務局に連絡を取り、現地の政府や企業や大学に繋いでいただきました。3月中旬に被災地へ入り、現地の知事や市長とも打合せ、省庁、NGO、企業や名工大からの支援も受け、翌月には、被害の大きかったトルコとシリアの国境に近いアンタキヤ市に大小3棟のインスタントハウスを建てて寄贈しました。
 現場での作業に参加した方、屋内を見学した避難者からは、「こんなに早くできるのか」「外は30度以上あるのに中はとても涼しい」などの感想をいただきました。特に嬉しかったのは「心が安らぐ」という感想でした。オスマントルコのモスクの形状に似ていて、天井が高く円い形状は、やはり人にとって心地良いのです。これらの成果により、急速に国外での評価が高まり、世界中の被災地にインスタントハウスを続々と寄贈していく運びとなりました。
 今後は、インスタントハウスの原価をもっと下げ、より多くの人々に満足した家を提供していきます。また、食品工場で廃棄されるフードロスにあるでんぷん系素材などをインスタントハウスの材料に使うことで、環境負荷ゼロの家とする研究、ナメクジの生態を活かした外壁の洗浄やコーティングの研究、古民家の断熱耐震補強とする研究などを進めています。これからも従来の常識を逆照射しつつ、新しい建物のカタチを模索していきます。


北川啓介|Keisuke KITAGAWA
1974年愛知県名古屋市北区の和菓子屋生まれ。1999年ニューヨークの建築設計事務所にて建築設計に従事。2001年名古屋工業大学大学院工学研究科社会開発工学専攻博士後期課程修了、博士(工学)。同大学助手、講師、准教授を経て、2018年から現職。約20年の国内外での建築設計や建築教育の経験を経て、知財をもとにした未来志向の建築や都市を考案し、実用化した上での事業化を推進。2017年米国プリンストン大学客員研究員。建築構造物領域のプロフェッショナルであり、インスタントハウス技術の考案者。受賞歴に、科学技術分野の文部科学大臣表彰など。

キャンパス内のインスタントハウスにいます

正門から一番近い研究室

移動があまり得意でないので、、

ありがたいことに、正門の一番近くに研究室があります。徒歩圏に自宅があるのに、しばしば、蛍光ピンク色の自転車で通勤しています。

 

高所があまり得意でないので、、

ありがたいことに、一階に研究室があります。建築学が専門なのに、高い世界遺産などには登れず、建物前に佇んでいます。

 

寒暑があまり得意でないので、、

ありがたいことに、キャンパス内の大きなインスタントハウスにいます。おかげさまで、夏も涼しく、冬も温かく過ごしています。

 
所在地

〒466-8555 愛知県名古屋市昭和区御器所町 名古屋工業大学24号館106号 北川啓介研究室

定休日

土曜日・日曜日・祝日・盆・年末年始

電車でお越しの方

JR/名古屋市営地下鉄の鶴舞駅から、鶴舞公園を抜けて、名古屋工業大学正門を入ってすぐ左側(北側)になります。

\ ご寄付受付中 /

令和6年能登半島地震の被災地へのインスタントハウスのご提供へご寄付はこちらから宜しくお願いいたします! 北川啓介